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―スピンオフ― 潔白・純愛 『赤坂成人・川井久実編』81

last update 最終更新日: 2025-01-23 17:08:51

楽しく会話をしながら食事していた。

食べ終えると、大樹さんは赤坂さんを連れて奥の部屋に行ってしまう。

美羽さんが紅茶とクッキーを出してくれた。

二人並んでソファーに座る。部屋にはゆったりとした音楽が流れていた。自然と気持ちがリラックスする。

しばらく、他愛のない話をしていた。

「赤ちゃんがいるの」

お腹に手を添えて微笑んでいる美羽さん。まるで天使のようだ。

「安定期になるまでまだ秘密にしてね」

「はい……。あの、体調大丈夫ですか?」

「うん。妊婦生活を楽しんでるの。過去にできた赤ちゃんが帰ってきた気がする」

美羽さんは、過去の話をいろいろと聞かせてくれた。

辛いことを乗り越えた二人だからこそ、今があるのだと思う。

気さくで優しくてふんわりとしていて本当にいい人だ。

紫藤さんは美羽さんを心から愛する理由がわかる気がする。

私は心をすっかり開いていた。

「赤坂さんのこと……好きじゃないの?」

「え?」

突然の質問に動揺しつつ、マグカップに口をつけた。

「いい人だよね、赤坂さん。きついことも言うけど正しいから説得力もあるし」

「……」

「実は 夫と喧嘩したことがあってその時に説得してくれたのも 赤坂さんだったの」

「 そうだったんですね」

「二人は……記念日とかないの?」

「記念日なんて、付き合ったりはしていないので」

「はじめてあった日とか……。何年も前だから覚えてないよね」

ごめんと言いながらくすっと笑う美羽さん。

初めて赤坂さんに会った日のこと――。

子どもだったのに鮮明に記憶が残っている。まさか、あの時は恋をしてしまうとは思わなかった。

こんなにも、胸が苦しくなるほどに赤坂さんを愛している。

「ねえ、果物言葉って、知ってる?」

「くだものことば? 聞いたことないです……」

「誕生花や花言葉みたいなものなの。果物言葉は、時期や外観のイメージ・味・性質をもとに作ったもので……。果物屋の仲間達が作ったんだって」

「はぁ」

美羽さんは突然何を言い出すのだろう。ぽかんとした表情を浮かべた。

「あはは、ごめん。私フルーツメーカーで働いていたの。なにかあると果物言葉を見たりしてさ。基本は誕生日で見るんだろうけど……記念日とかで調べて見ると以外に面白いの」

「そうなんですか……」

「うん。大くんと付き合った日は十一月三日でね、誕生果は、りんご。相思相愛と書かれていて……。会わな
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